「つまりあなたに、選択の余地はないんですよ」
 別人のように冷たい眼になった男はそう言って、長い脚を組んだ。
「あなたの大切な女の命は、僕の手に握られている。……黙って最後まで話を聞いてもらえますか。ハンサムなお巡りさん」




                 一


 もう、何十年も前のヒットソングが、街中に溢れている。
―――来週はクリスマスか……。
 蓮見黎人は、指先で眉を掻いた。
 どうも――居心地が悪いというか、落ち着かない。こんな昼間に、十代の若者でにぎやいだ街に――女連れで、ぶらぶらと歩いていることが、である。
 今日の午後には、同居している小雪の両親が上野に着く。上京するのが二度目になる彼らを迎えに上野駅まで行く約束で、その後は四人で食事をする予定になっていた。
「それにしても、よく休みが取れたね、黎君」
 並んで歩く長身の女は、朝から楽しそうだった。思えば一緒に暮らし始めてから随分経つが、日中、こんな風に連れ歩いてやったことは一度もない。
「忙しいからな、悪いな、結局、新婚旅行も行けそうにないし」
「やだなぁ、別に嫌味で言ったんじゃないのに」
 小雪は健康そうな頬にえくぼを浮かべ、くすくすと笑う。
「いいよ、仕事してる黎君、超かっこいいから。すごいよね、来月にはインドに行くんでしょ」
「らしいな、まぁ、すごくはないけどよ」
 首相の外遊に付き添って、警備班長としてインド行きが決まったのは先月のことである。それまで国内の警備ばかりに回されていたのが、初めて海外組へ編入された。
(――お前、バリバリの出世コースだな、え、はッちゃんよ。)
 と、にやにや笑いながら言ってくれたのは同僚の愛内薫だったが、まるで、それと引き換えのように、仕事は過酷になる一方だった。飲んでもいないのに連日午前様、ここ半年、休みなどまともに取れたためしがない。
 無論、結婚しますと言ったところで、お、よかったな、色々準備も大変だろうし、じゃあゆっくり休んでくれ、―――などと言ってくれる上司は一人もいない。
 今日は新婚旅行にも行けない結婚前、最後のつもりで開き直って休暇を取った。先ほど二人で区役所に行き、婚姻届の用紙をもらってきたところだった。そして、
「ついでにプレゼント買いに行こうよ」
 と、小雪に誘われるがままに――電車に乗って渋谷まで出てきたのだ。
 見回せば、どこを見ても高校生らしきカップルだらけ。
「平気平気、黎君、ジーンズ穿くと、結構若く見えるから」
 この春東京に出てきたばかりの小雪にしてみれば、何もかも珍しくて楽しいのだろうが、蓮見にしてみれば、ついつい補導したくなる手合いばかりとすれ違う。
 ぎょっとしたのは、「ここ一回行ってみたかったんだ」と言われて連れていかれた、ティ……なんたらという宝石店で、そこはさながら野戦病院のような、壮絶な有様だった。
―――ここ、宝石店じゃねぇだろ……。
 思わず眼をこすったほどである。
 ぎゅうぎゅうと押し合う人を良く見れば、全て若い男女である。まるで奪い合うように――ケースに置いてある宝石類にむらがっている。必死で叫ぶ従業員と、その渦の中にさらに飛び込んでいく新たなカップル。
 俺、警備でもしましょうか。
 と、思わずそう言いたくなるくらい、買い物客たちの顔には、鬼気迫るものがあった。
「別にケチってるわけじゃないけどさ、他のものにしないか」
 すっかり気おされて、再び通りを歩きながら、傍らの女に聞くと、
「ダメ、今日は指輪買ってもらうって決めてるんだもん」
 と、小雪は、澄ましたような顔で笑う。
―――じゃ、金渡すから、一人で……。
 とは思ったものの、それは、口が裂けても言えなかった。
「ねぇ、さっきの婚姻届……」
 そのまま黙って歩いていると、腕を組んだままの小雪がふと呟いた。
「ん?」
「黎君、先に書いてくれる?どうせクリスマス休めないんでしょ」
「ああ、まぁな」
 もらった用紙は、封に収め、それは蓮見の内ポケットに入っていた。
 女の誕生日でもあるクリスマスの日に、入籍する約束になっている。
 薄っぺらい紙一枚、これを出せば結婚という儀式が終わるのが、なんだか味気なさすぎて信じられなかった。添付書類として必要な戸籍謄本は、今日来る小雪の両親が、二人分揃えて持ってくる予定になっている。
「区役所には私が出しとくから、先に名前書いてちょうだいね、今日、お父さんに保証人になってもらうから……」
「じゃ、もう一人は、俺が適当に探しとくよ」
 愛内のだんご鼻を思い浮かべながら、蓮見は曇った空に視線を向けた。
 結婚か。
 なんだか、―――いまだに実感がないと言うのが本音だが、それを言えば、隣の女は悪い顔になるだろう。
 まぁ、実感を持とうが持つまいが、どうせ結婚してしまえば、それは嫌でも現実になる。毎日毎朝、この女の顔を見て目覚め――そのまま、年を……。
 年を取って。
「……黎君?」
「あ……ああ、何だよ?」
 蓮見は我に返ったように眉を上げた。
 今――自分は、何を考えていたのだろう。
「今さー、仕事のこと考えてなかった?」
「…………」
 小雪は、やっぱりね、と言った顔になって、得意そうに笑う。
「図星でしょ、難しい顔してたもん」
「別に……」
 蓮見は眉を寄せたまま、両手を上着のポケットに突っ込んだ。
 今、自分は、何を考えていたのだろう。
 何を――今さら、考えようとしていたのだろう。
 莫迦莫迦しい―ー。振り切るように顔を上げる。
 腕を組んでいた女を通じて、どん、と柔らかな衝撃を感じたのはその時だった。
「きゃあっ」
「おう、ソーリー」
 小雪の声。咄嗟に振り返ると、彼女の白いスーツに赤いものがべっとり付着していた。それがスカートにまで滴って、ぽたぽた地面に落ちている。
 つんと胃に響く西洋マスタードの香り。
「わっ……ひどい、どうしよう」
 茫然と呟く小雪の足元で、零れたホットドックを拾い集めている――ブラウンの髪をした大柄な男。
 蓮見は男に目を向けた。
 額で分けて、両サイドに垂らした髪は肩までの長さがある。眼を覆う、顔の形にフィットしたサングラス。顎には薄っすらと髭を蓄え、ツイードジャケットにジーンズ。服の仕立ては高級そうなものだった。
「ごめんなさい、お嬢さん、」
 散らばったものをかき集め、男は慌てた態で立ち上がった。起つと相当な上背がある。蓮見より、少しばかり背が高い。
 喋り方のイントネーションに、少しだけ違和感があって、日本人ではないとすぐに判る。
「本当にごめんなさい、すいません、ああ、どうしよう」
 困惑した様子で、男は目を覆うサングラスを外した。
 青く澄んだ眼、彫りの深い目鼻立ちは西洋人の特徴をくっきりと表している。若くは――ない。髭を剃ったとしても少年という年齢ではない。二十代後半かそれくらいだ。
 素早く男の外見を観察した蓮見は――咄嗟に、小雪と男の間に、身体を割り込ませていた。
 こういったやり口で、汚れた衣服に気を取られている女のバックを奪う。疑いたくはないが、外国人の犯罪で最も多いパターンである。
「すいません、人を探して焦っていて、あなたの服を汚してしまった。ごめんなさい、ごめんなさい」
 が、男は、本当に申し訳なさそうに――意外なほどお人よしそうな表情を顔に浮かべ、ぺこぺこと頭を下げた。少し前の通りに、ホットドッグの屋台があった。そこで何個か買い込んだものが、すれ違い様に小雪の胸元でつぶれたのだろう。――故意にぶつかったものでなければだが。
 ひたすら謝るばかりの男は、恐い顔をした蓮見を見ても、特に臆する様子もない。
 口から出る言葉は、少し違和感があるものの、完全に流暢な日本語だ。行き交う人が、じろじろとこちらを見ている。
「黎君、どうしよう」
 小雪が、さすがに途方に暮れたような顔を向けた。
 女が着ていた服が、ボーナスで買ったばかりの一張羅で、今日、初めて袖を通したものであることを蓮見はよく知っていた。ここまでケチャップと油が付着してしまえば――白だけに、元には戻らないだろう。
「まぁ、汚れたもんは仕方ないだろ」
 さすがに憐れになったものの、多分、出会い頭の事故で、たまたま加害者になった外国人を責める気にも、弁償しろと迫る気にもなれない。
「いいよ、やっちまったことは仕方ない、今度から気をつけろ」
「すいません、すいません」
 男はさらに深く頭を下げて――そして、おずおずと顔を上げた。
 深い青を抱いた瞳。真直ぐに見つめられると、ちょっと眼を逸らしたくなるほどだ。どこかで見た顔だな、とふと思った。ただ、それがどこだったかは思い出せない、そんな感じだ。
「あの……僕、あなたと同じ……似たような服、売ってる店、知ってます」
 ハンカチを取り出し、ちょっと吃驚している小雪にそれを差し出しながら、男は言った。
「弁償させてもらえませんか、僕、その店の馴染みなんです。安く売ってもらえます」
「いいよ、そんなもの、気にすんな」
 小雪が何か答えるより早く、口を挟んでいたのは蓮見だった。
 さすがに、職業柄、初見の外国人をうかと信じるほどの楽観的ではない。
「いいえ、気にします。こんな綺麗な人の、綺麗な服を汚してしまった。匂いもきつくて、彼女の一日は台無しです」
 男はしつこく食い下がる。
「いいよ、あのな」
「お願いします、僕のトモダチがやっている、とてもいいお店です」
 少し躊躇したものの、蓮見は胸ポケットから、警察手帳を取り出した。
 それを見た男の、端正な眉がわずかに上げる。
「悪いが、国際化しそこねた日本の警察じゃ、あんたみたいな男は、完全に職質の対象なんだ、やっかいごとに巻き込まれたくなきゃ、俺たちには係わるな」
「僕は、やましいことは何もありません。……そうです、これを」
 意外そうな眼になった男は、慌ててポケットから、ハガキ大の――ポストカードのような物を取り出した。
「日本で、僕、いつも、ここで服を買うんです。綺麗な彼女に似合う服がいっぱいある、大丈夫です。有名な店です」
「あっ、そこ知ってる」
 カードの表に記された店名を見た、小雪の眼が、もう輝いている。
「……おい」
「いいじゃない、別に。この人に弁償してもらわなくても、黎君が、そこで新しい服をプレゼントしてくれてもいいわけだし」
「そりゃ……そうだけど」
「上野に行かなきゃいけないし、どっちにしても服買わないと、このままじゃ電車にも乗れないじゃない」
 ね。
 と、小雪はにっこりと笑う。
 蓮見は諦めて溜息をついた。
 それを見守っていた男は、ようやく安堵したように、優しげな笑みを浮かべる。
「保証しますよ――ありがとう、お嬢さん。おかげで、彼も納得されたみたいです」
 視線を向けられた蓮見は、ただ、無言で眉を寄せた。
 その表情を敏感に読み取ったのか、男は困ったように肩をすくめる。
「僕はただの旅行者です。休暇を東京で楽しむのが昔からの習慣なので。……ご心配なら、どんな質問でもお答えしますよ」
 そう言って、内ポケットから取り出した観光ビザ。
 蓮見はそれを受け取り、写真と氏名欄に視線を落とした。確かに怪しむべきところは何もない。ピザは正式に認証されていて、滞在期間にも齟齬がない。
「随分日本語が流暢だな」
「母が日系人でしたので」
 他に何か?と、男は無邪気な目を蓮見に向ける。
 無言でビザを男に返すと、彼はおどけたように首をかしげた。
「じゃ、行きましょうか、このレディに、素敵な服を見繕ってあげますよ。ハンサムなお巡りさん」
 男はそう言い、白い歯をみせて、にっこりと微笑した。


                 二


―――ハンサムなお巡りさん。
 目の前に座る男は、路上で最後に言ったセリフを繰り返した。
「……ふざけんなよ」
 蓮見は、低い声でそう言い、サングラスで覆われた男の顔を無言で見上げた。
「僕の言い方が気に入りませんでした?あなたに選択の余地はない――本当のことを言ったまでですがね」
 ハンサムなお巡りさん。
 男は――揶揄するようにもう一度繰り返し、おどけた仕草でサングラスを外す。
「この店の店員は何も知りませんが、彼女が入ったフィッティングルームは、僕の仲間の監視下にある。騒がないでくださいね、あなたは黙って、僕の話を聞いてくれればいいいだけですから」
 その話が本当かどうかはわからない。
 が、今の蓮見にはそれを確かめる術もない。
 なにしろ、初めて入った店で、この奇妙な脅迫者の、正体も意図も判らないのだから。
 小雪は――今、多分、何も考えずに、喜々として出された衣装を試着しているのだろう。
 迂闊だった。連れて行かれたショップは、昨日今日出来ような安っぽいものではない。その豪華さと店員や客の雰囲気で、まぁ、そんなに心配することでもなかったか――と、思い始めていた矢先のことだった。
「彼女のことが大切なら、しばらく黙って、僕の言うことを聞いてもらえませんか」
 二人は、店内の隅にあるカフェのような空間で、ひとつのテーブルを挟んで座っていた。
「ま、とにかくリラックスしてください、レディに危害を加えるつもりは初めからない。逆に、あなたから危害を受けたら困るので、こんな手段を取っただけなんですよ」
「……危害って、俺がか」
「そう、あなたが私に」
「…………」
 意味が判らない。この外人、頭がいかれてるんじゃないか?
 蓮見が黙っていると、男はふいに柔らかな微笑を浮かべた。
 さきほどまで、氷のように冷たかった瞳に、最初見たような――暖かな色味が戻ってくる。端正な顔をした男だが、顎にたくわえた髭のせいか、どこかコケティッシュな……まるでコメディアンのような雰囲気が、そこはかとなく漂っている。
「そんなに真面目な顔をなさらないでくださいよ、言ったでしょう、ここであなたと話がしたいだけなんです。お連れのお嬢さんが退席している間に」
「それであんな、回りくどい真似までしたのかよ」
「ソーリー、元々は役者志望だったので」
 大げさに肩をすくめる。もうその顔に、通りで見せたような気弱な色は何処にもない。
「何者だ、お前、話があるなら、直接職場に来ればいいじゃねぇか」
「それができるなら、とっくにそうしてます」
 クラッシックな曲が流れる店内。店員も客も、二人の緊張にはまるで気づかず、楽しげな談笑を交わしている。ショーウィンドウから見える通りは、クリスマスの人ごみでにぎやいでいた。
 蓮見は、自分の迂闊さを嫌というほど思い知らされながら――、開き直ってコーヒーカップを口につけた。
「僕はね、常に監視されているんです。実際、自由に動ける時間はわずかしかない」
 男はそう言い、再び冷たい眼になってうっすらと笑った。
「お写真は拝見していましたが、実際、これほど素敵な人だとは思わなかった、お会いできて光栄ですよ」
「お前の名前は、」
「ラウでいいです、みんな僕のことをそう呼びます。自己紹介は結構です。あなたのことなら全て知っている」
「自己紹介するのはてめぇだろう。言え、何の目的で俺に近づいた」
「せっかちだなぁ、……レディはゆっくりと試着中だ、時間はたっぷりあるっていうのに」
 男は――ラウと名乗った男はゆったりと脚を組替える。宝石のような蒼い瞳は、真剣なのかふざけているのか、蓮見にはその表情が読みきれない。
「ご結婚されるそうですね、ご一緒のレディがお相手ですか」
「…………」
 こいつは誰だろう。
 蓮見は目をすがめ、対面に座る男をじっと見つめた。
 過去に――自分が携わった様々な事件、国際犯罪都市と化した東京で、こういったインテリ風の外国人が暗躍しているのは珍しくもない。
 印象が誰かに似ている――知人ではなく、芸能人の誰かに似ている。ただ、どう考えても見覚えのない顔だ。
 男が入った店は小雪曰く、都内で最も有名な高級ブランド店で、紹介がないとなかなか入ることもできないらしい。
 男は――すんなりと店内に入り、顔見知りらしい外国人の店員と、親しげに会話をしていた。
 店内には、数名の外国人カップルと、そしていかにも高級そうな衣装をまとった日本人カップルが数組、のんびりと品物を物色している。黒いスーツを身につけた店員は全員白人で、モデル顔負けの美貌とスタイルを持っていた。
「僕にも妻がいるんです……本国にね、まぁ、言ってみれば、僕はあなたの人生の先輩とでもいうのかな」
「うるせぇよ、とっとと本題に入ったらどうだ」
「話の前に……お聞きしたいのですが、あなたは今、拳銃を携帯されていますか」
「は……?」
 何言ってんだ?こいつ。
 よほど持っていると言ってやりたかったが、質問の意図が見えないため、とりあえず本当のことを言ってやった。
「お前らの国と違って、日本では非番の警察官が、拳銃を携帯するなんて有り得ねぇんだよ」
「はは、それを聞いて安心しました、僕はね、死ぬ時は愛する家族に見守られて、と決めているので」
 サングラスを指でくるくる回しながら、男は笑う。
 何だろう。妙に人懐っこい笑い方だ。冷たい眼になったかと思うと、どうにも憎めないような子供っぽい表情も見せる。なんだかつかみ所のない男だ。
「……僕は昔の香港映画が大好きでして」
 コーヒーカップを持ち上げながら、男は雑談でもしているような気安さで口を開いた。
「アンディ・ラウという役者をご存知ですか。職場では、僕の名は通称で通ってましてね、その名前が案外気に入って、それでラウール・メイヤーという名前を使わせてもらっているのですが」
 その名前は、数10分ほど前に、ビザで確認したものである。
「悪いが、てめぇと無駄なおしゃべりをするほど暇じゃねぇんだ」
 さすがに限界を感じ、蓮見はだん、とテーブルを叩いた。
「何が言いたい、何の酔狂で、現役警官を嵌めようなんて莫迦な真似をしやがる、いっとくが選択権のないのはてめぇだよ。女に指一本触れてみろ、その腕へし折って、そのまま留置所にぶちこんでやる」
 自分で言うのもなんだが、こうやってすごみを聞かすと、大抵の犯罪者は大人しくなる。が、目の前に座るスマートな男は、心底呆れたような苦笑を浮かべただけだった。
「……まいったな、本当に頭の悪い人だなぁ」
「はぁ?」
 思いもよらない反応に、がくっと腰が引けていた。
「聞いていた通りだ、ウィットを利かせた説明はあなたには意味がないんだな、蓮見さん」
―――聞いていた通り?
 言葉の意味を捉えかね、蓮見はわずかに眉を寄せる。
「レディを遠ざけたのは、あなたへの心遣いもあるんですよ、蓮見さん。僕の話をあなたが冷静に聞き終われるとは思えないから」
 男は顎の下で指を組み、少し、挑発的な眼をして笑った。
「僕の本名はアンディ、……アンディ水城、名前に聞き覚えがあるはずですよね。初めまして、あなたの元上司、右京奏と結婚した男です」
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act3 右京 奏(1)