粉雪が舞っている。
 舞い上がる焔の上、白い羽根にも似た淡雪は、儚く溶けて天に還る。
 めらめらと燃えるページが風に煽られ、中の文字を一時黒々と浮かびあがらせた。
 不可思議な記号の羅列。
 が、何度も繰り返しその文字を追った彼女には、すぐに記号が意味する言葉が理解できる。
「奥様」
 母屋のほうから声がした。
「奥様、病院のお時間ですけど」
 短くそれに答えた祥子は、最後の画用紙を焔の中に投げ入れた。
 禍々しくも稚拙なクレヨン画が、グロテスクに歪みながら朽ちて行く。
 この罪を永遠に葬り去れるのなら、気の触れたふりなどなんでもなかった。
    お母さん、このノートを私に渡してほしいの)
    私の中の、もう一人の私に)
 あの子は、知らなかったのだ、そう、何も。
 全ては、娘にとりついた恐ろしい悪魔の仕業なのだ   
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
    
 
 

 

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