聞こえる、恋の唄
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エピローグ
………<1>………

「お召し物を、駄目にしてしまいましたね」

雅流の着替えを手伝いながら、志野は少し口惜しそうに呟いた。

日差しはすでに、初夏の色味を帯びていた。

庭には鮮やかな緑が映え、家の内にも外にも、優しい光が溢れている。

「もう駄目か」

「ええ、もう駄目です」

もったいないです、いい仕立てでしたのに。

膝をついて片付けを続ける志野に、頭上から少し呆れた声がした。

「お前は案外現実家なんだな、女というものは皆そうなのか」

「まぁ」

少し赤くなって、志野は立ったままの男を恨めしく見上げる。

「なんだか、俺が莫迦みたいだ。一人で舞い上がっているようじゃないか」

「……まだ、先の話でございますから」

これから出稽古に向かう夫の姿を、志野は不思議な幸福に包まれたまま、しばし見つめた。

立ち姿の綺麗な、いかにも落ち着いた美しい振る舞いをする人が、うっかり着物を破ってしまうほど、慌てて帰って来てくれた。

それが、嬉しくもあり、おかしくもある。

「今夜は、鞠子様がおいでくださるそうです」

「そうか、母さんが話したんだな」

「ええ、先ほど鞠子様のところに行かれましたから、ご一緒にお戻りになると思います」

苦笑した雅流は、「いい加減義姉さんと呼んでやったらどうだ」と言ったが、志野は曖昧な笑顔でそれに応えた。

「せっかくですので、薫様もお呼びしようかと思っているのですが」

「そうだな」

微笑して、雅流はそっと膝を折った。

「おいで」

「あの、こちらを片付けませんと」

「いいから、おいで」



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