■■■■■■■■ 聞こえる、恋の唄 ■■■■■■■■ 第20章 「繋がる想い」 |
………<2>……… |
この人は……。 自分の視力と引き換えにしてまでも、私を求めてくれたのだ……。 視界が滲み、もう何も言えなかった。 志野は全身の力を抜き、ただ求められるものに、抗わずに応じた。 「俺を見ろ」 それでも、志野は目を逸らしていた。 「目を逸らさずに俺を見ろ」 「…………」 「俺は汚れた人間か、お前とは別の世界にいる人間か」 「…………」 「見ろ、志野」 ようやく、おずおずと、志野は頑なに閉じていた瞳を開けた。 逆光で、輪郭が明確に照らし出された美しい身体。 けれど、それがどんなに汚れて醜かったとしても、志野にはやはり、美しく見えていたはずだった。 志野が愛しているのは雅流の外見でも肉体でもない、雅流という人、そのものだから――。 ようやく、雅流が言いたかったことが、雨が胸に沁みるように判りはじめていた。 視野が潤み、志野は両手で口を覆った。 「俺はなんだ」 雅流が問った。 「雅流……様でございます」 志野の額に雅流の指が触れ、乱れた髪をそっと払った。 「お前を好きなだけの男だ」 「…………」 「俺たちは何も変らない、同じなんだ……昔から」 ――雅流様……。 涙が溢れ、頬を伝った。 抱き合う素肌から、同じ匂いと同じ鼓動の音がした。 心の楔がゆるやかに解け、ただ、目の前の人を好きだという気持ちだけが全てになる。 「俺と一緒に生きてくれるか」 大きな暖かさに包まれたまま、志野は小さく頷いた。 そして、ようやく心から安堵して、愛する人の身体を抱きしめた。 |
>next >back >index |
HOME |