■■■■■■■■ 聞こえる、恋の唄 ■■■■■■■■ 第7章 「接吻の夜」 |
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気持ちばかりが焦っても、暗闇では、お仕着せを探す事もままならない。 かといって、再び明りをつける勇気もない。 どうしよう。 そう思った時、再度、外から扉が開いた。 はっとする間もない。 扉は即座に閉まり、ただ、入り込んだ人の気配だけが、暗い室内に感じられた。 (雅流……様?) 声を掛けようとして、出来なかった。 目の前に立っているのは、間違いなく雅流だ。 顔が見えなくても気配だけで判る。 鋭く見つめられているのが、何も見えなくてもはっきりと感じられる。 「お前は莫迦だな」 低い声がした。 志野は、何も言えなかった。 「また、離れに行ったのか。お前は莫迦だ、ここまで莫迦な女だとは思わなかった」 怒り任せに、何かを吐き棄てるような声だった。 「どうせ、莫迦でございます」 何故言い返してしまうのか、目の奥につんとした痛みを感じながら、志野は夢中で言葉を繋いでいた。 「綾女様に比べたら、学も身分も教養もない、下種な女でございます。ですからいいんです、もう、私はいいんです」 「……何がいいんだ」 「もういいんです、いいんです」 「だから何がいいんだ」 自分でも、言っている意味は判らなかった。 判らないままに、必死で言葉だけを繰り返した。 雅流の声が、苛立ちを帯びる。 「何がいいんだ、言ってみろ、志野」 「私は……いいんです。そういう女でございますから」 「だから何がいいんだ」 「だから、もう」 気がつけば、体温が、触れるほど近くにあった。 いいんです……いいんです。 言葉の続きは、もう口にすることはできなかった。 肩を強く抱かれ、息もつけないほどの激しさで唇が重ねられていた。 |
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