聞こえる、恋の唄
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第20章
「繋がる想い」
………<1>………

志野は、眼を閉じていた。

彼の吐息と鼓動を全身で感じながら、息苦しいほどの心地よさと、死にたいほどの罪深さを同時に感じ続けていた。

私は、この人より四つも年が上で。

未来あるこの人に比べ、私には何もなくて。

家柄も、容姿も、彼には少しもふさわしくないのに。

「志野……」

半身を起こした雅流が、動きをとめて見下ろしている。

「私を見ないでください」

志野は顔を覆っていた。

眩しい明りで、男の顔が逆光になっている。

自分には見えない、なのに雅流の目には、肌の陰りの細部まで、ありありと見えているに違いない。

「お願いです、私を見ないで」

「お前はきれいだよ」

志野は首を振ったが、顔を覆う両手は、掴まれて引き離されていた。

「全部きれいだ。お前はいやでも、俺はもっと見ていたい」

ああ、そうだ。

志野は、胸を衝かれるような思いで口をつぐんだ。

雅流は――もう何年もの間、光の射さない世界で生きてきたのだ。

その彼に見ないでというのは、なんと思いやりのない言葉だったろうか。

背を抱かれ、引き起こされる。

互いの脱いだ着物の上で、雅流は志野を抱き締めて、再会して初めて二人は接吻を交わした。

「志野……」

抱かれている肩が、背中が痛い。

息ができない。

せき止められていた激流が溢れ出すような、失った時間を埋めてあまりあるような――激しい、身体ごと溶けてしまいそうな口づけが続く。

唇をわずかに離し、耐えかねたように雅流は呟いた。

「もう、何処へもやらない」

「雅流様」

「何処へもいくな、これからはずっと俺の傍にいてくれ」



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