■■■■■■■■ 聞こえる、恋の唄 ■■■■■■■■ 第19章 「真実の二人」 |
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「お前は何故、ここにいる」 雅流の目が、初めてまっすぐに志野を見つめた。 「俺を憎んでいるはずのお前が、どうして、俺の傍にいるんだ」 生気のこもった、確かな意思を有した眼差し。 志野は――全てを理解した。 そして同時に驚愕した。 「いや……っ」 逃げる志野より、雅流の動きのほうが早かった。 顔を覆おうとした手首をつかまれる。 雅流の眼は、確かに視力を有した人のそれだった。 かつてのように、どこか一点を見つめているのではない。 「お前が、口が聞けない真似を止めるまで」 両手を押し開かれる。 強い力に抗いきれず、志野はただ、顔をそむける。 「俺も目が見えないふりを続けるつもりだった。そうでないと、お前がまた去ってしまうと思ったからだ」 「いつからですか――」 志野は、声をふり絞り、顔を背けたままで呟いた。 「……いつからですか、あなたは」 「何ヶ月か前から、時々光がまぶしいと感じるようになっていた。あれは、お前に母の様子を尋ねたときだ」 引き寄せようとする腕を、志野は満身の力で押し留め続けた。 「お前がふいに障子を開けたんだ――顔を上げると、目の前には、志野が立っていた」 「離してください……っ」 張り詰めていた力が途絶え、そのまま志野は大きな腕に抱き締められていた。 「すぐに光は消えて、俺にはそれが、錯覚だったのか現実だったのか判らなくなった。迷っている時に、姉さんがきてあの騒ぎになった。姉さんの口からお前の名前が出た時に、ようやく俺は理解したんだ。ずっと俺の傍にいた女が、志野だったのだと」 「どうして、すぐに言わなかったのです」 震えながら、志野は訊いた 「言えばどうなる。どうしてお前は口のきけない振りをしていた。その時の俺には、お前が自分の意思で傍にいるとは思えなかった。母さんと姉さんが企んだことだろうと、正直、腹をたてもした」 雅流の声には怒りがある。 志野は言葉を失っていた。 だからあの時彼は、御園が怒るほど冷淡な態度で「僕には関係のない人です」と言い切ったのだ。 「次に視力が戻った時……夜半だった。あれから時々、ちらつくように光が差すようになった目が、その夜はどうしたことか、ずっと鮮明に見えていた」 それがいつのことか、考えるまでもなかった。 あの夜、雅流がいきなりやってきた夜のことだ。 「今夜しかないと思った俺は、どうしても確かめたくて、お前の部屋に行ったんだ。はっきりと顔を見て、問い正すつもりだった。でもできなかった」 「どうしてですか」 言葉を途切れさせた雅流は、わずかに眉を翳らせた。 「……お前が口がきけないでいるのは、俺が思うような理由ではないかもしれないと思ったからだ」 その時に。 志野は唇を噛みしめた。 私の顔を、彼ははっきり見てしまったのだ。 |
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