■■■■■■■■ 聞こえる、恋の唄 ■■■■■■■■ 第18章 「聞こえる、恋の唄」 |
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とにかく、私は鞠子のところへ相談に行ってきます、もしかして、雅流が行っているかもしれませんから。 そう言い残し、御園が出て行ってから、どれだけの時間がすぎただろうか。 夕闇に包まれた座敷で、呆けたように座り続けていた志野は、それでも夕食の支度の時間がくると、機械的に立ち上がっていた。 御園の言葉を、志野は――何度も反芻し、その意味を考えていた。 雅流が自分のことを忘れられないという――本当だろうか……、一瞬揺らいだものの、妄想は、すぐに激しい感情で打ち消した。 有り得ない。 御園は知らないのだ。 自分が、いかにひどい言葉で、年下の男を傷つけてしまったか。 プライドを踏みにじってしまったか。 それに、もし、――有り得ないことだが、雅流がまだ――自分にいくばくかの感情を抱いてくれているとしても。 志野が、自らを名乗り出て、そして説得したとしても、自分の言葉が何の意味を持つのだろうか。 雅流が実際、どういう思いを抱いているのかは知りようがない。 しかし、いずれにしても、彼を再度傷つけ、怒らせるだけではないのだろうか。 名乗ろうとも、黙っていようとも――結婚が破談になろうとも――それでも。 彼の眼が開く時、自分はもう、その傍にはいられないのだから。 激しく胸が痛むのを感じながら、志野は自分の傷跡に手を当てた。 この顔を、そして貧相に痩せた身体を、変ってしまった自分を、彼にだけは見られたくない。 眼が開いた彼はどう思うだろう。 激しく失望し、それでも優しいあの人は、情けで傍においてくれるだろうか。 それだけは……できない。 そんな負担にはなりたくない。 「…………」 志野は目を閉じた。 長い間閉じ続けていた。 いつの間にか日は暮れ、畳に伸びた志野の影も、闇に紛れて消えていく。 ようやく心が、一つの道を探り当てた時だった。 「ただいま」という声が玄関から聞こえた。 まるで普段どおりの、雅流の声。 一時、躊躇したものの、志野はすぐに立ち上がり、玄関に向かって小走りに駆けた。 |
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