■■■■■■■■ 聞こえる、恋の唄 ■■■■■■■■ 第17章 「触れあう鼓動」 |
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意識を雨に向けていた時だった。 志野は驚いて、湯沸かしから手を滑らせていた。 わずかな悲鳴がもれ、足元に熱い湯が飛び、獰猛な蒸気が舞い上がる。 「大丈夫か!」 雅流が立ち上がる。 志野は慌てた。 いけない――こっちへ来てはいけない。 急いで手を二度叩く。 熱い湯に触れ、指に火傷でもしたら。 けれど雅流は、過たずに志野の傍に駆け寄ってきた。 (――駄目!) 自分より、むしろ濡れた土間に素足で飛び込んでくる雅流のほうが危険だった。 志野は言葉の代わりに、咄嗟に目の前に迫る男の胸を、両腕で強く突いていた。 虚を衝かれたように、雅流は壁に背をぶつけ、そのままよろめいて腰をつく。 同時に志野も前のめりに倒れ、男の胸に被さるようにして膝をついた。 雅流の両腕が志野を支える。 それでも勢いを支え切れず、二人は重なるように土間に倒れた。 気がつくと志野の目の前には隆起した雅流の喉があり、襟からのぞく、形良い鎖骨があった。 心臓の音が聞こえる。 激しい自分の動悸が聞こえる。 志野は、おそるおそる顔をあげた。 ほとんど触れあうほど近くに、雅流の顔があった。 滑らかな肌があった。 唇が動くのが見えた。 直視できないまま、志野は目を逸らし、立ち上がろうとした。 ふいに、強い力で肩を抱かれた。 肩を抱いた腕は腰にまわり、そのまま力を込めて引き寄せられる。 (え……?) 何? 胸が、痛いほど圧迫されて――別々だった鼓動がひとつになる。 |
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