■■■■■■■■ 聞こえる、恋の唄 ■■■■■■■■ 第16章 「雅流の婚約」 |
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「鞠子、およし」 「いいのよ、今日こそはっきりさせてやるんだから」 鼻息を荒くして駆け込んできた鞠子は、廊下に立つ志野を見て、眉をあげた。 その背後から、御園が慌てた態で追いかけてくる。 「いつまでこんなことを続けるつもりなの」 志野を睨むように見つめながら、鞠子は低く囁いた。 志野は動けず、三味線を持ったまま凍りついていた。 「まだるっこしいったらないのよ。だから雅が、勝手に結婚を決めてしまったんじゃないの」 襖の向こうからは、変わらぬ三味線の音が聞こえてくる。 廊下の会話が雅流に聞こえることはないだろう。 が、鞠子がこれからしようとしていることのほうが問題だった。 「鞠子!」 息を切らした御園が止める間もなかった。 がらりと襖を開けた鞠子は、そのまま勢い込んで雅流の前に歩み寄る。 気配で、いつにない異常を感じたのか、雅流は眉を上げ、三味線を静かに膝に置いた。 志野は、廊下に立ったまま、激しい動悸で震えている。 今の状況というより、どうして鞠子がこれほど激高しているのかが判らない。 「私が悪いのです」 かすれた早口で、御園がそっと囁いた。 「私が鞠子に、江見さんの愚痴ごとを言ったものだから」 「どうして勝手に結婚を決めたの、雅」 姉の理不尽な怒りに、雅流はただ、面食らっているようだった。 「今まで縁談を断り続けていたのに、今度ばかりは何のつもり? 私とお母様の気持ちも知らないで」 「喜んでもらえると思いましたが」 「じゃあ、聴きますけどね」 落ち着き払った雅流の態度に、鞠子が居直ったように鼻を鳴らした。 「今までお母様はね、お前が志野を思い切れないんじゃないかと思って、それは随分な心配をされていたのよ。今もそのことがあるから、本心から結婚をお喜びにはなれないのよ。本当のところはどうなの、雅。お前はまだ、志野のことが忘れられないんじゃないの」 |
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