■■■■■■■■ 聞こえる、恋の唄 ■■■■■■■■ 第14章 「忍ぶ想い」 |
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雅流に、黒川を経由した縁談の話が持ちあがったのは、銀杏の葉が、黄から赤に変わり始めた頃だった。 「いいお話すぎて……どうしたものかしらね」 黒川から正式に写真を受け取って帰ってきた御園は、ただ、困惑しているようだった。 というより、苦悩しているようでもあった。 (私のせいだろうか) 志野は苦い気持ちで考える。 黒川の家元を経た縁談なら、御園にも雅流にも断る不義理はできないだろう。 弟子たちのかしましい噂話によれば、相手は、大手の雅楽器店の令嬢であるという。 結婚を機に、大きな稽古場をプレゼントしたい、そこでますます黒川流の三味線を世間に広げていって欲しい――もともと、黒川のパトロンのような存在だった社長は、そう言って、家元の前で土下座までしたという。 華族制度はなくなったといえども、雅流は旧華族、櫻井伯爵の息子である。 その称号は、本人の意思とは無関係についてまわる。 爵位を絶対的な権威だと思っている人たちにとっては、伯爵家の価値は今でも決して変わらないのだ。 「……志野、お前はどう思いますか」 二人きりのとき、御園は志野をきちんと本名で呼んでくれる。 それでいて、雅流の前では、一度も呼び方を間違ったことがない。 年をお召しになっても、やはり奥様は奥様だ……そんなことを嬉しく思いながら、志野は繕い仕事の手を止めて振り返った。 |
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