■■■■■■■■ 聞こえる、恋の唄 ■■■■■■■■ 第14章 「忍ぶ想い」 |
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「なあに……あの顔」 使いに出る志野を見送った鞠子は、露骨な嫌悪を目許に浮かべ、義理の母を振り返った。 気の早い鞠子は、電話の話を半ばで遮り、すぐに車に乗って御園の家まで押しかけてきたのだった。 御園は、口実を作って志野を使いに行かせ、鞠子は家の中に入れず、隣家の軒先で立たせたままにした。 その扱いも不満だったのか、鞠子はかみつくように母親を睨みつけた。 「ちょっと、お母様、冗談でしょう? あんな年増の傷者を、まさかと思うけど、あのまま雅流の傍におくつもりじゃないでしょうね」 「まぁ、話をしまいまでお聞き、お前はせっかちなんだから……」 なるべく感情を抑えて話したつもりだったが、話が進む内に、鞠子の顔から怒りが解け、目はみるみる潤み出し、最後の方はハンカチで鼻をかみだす始末だった。 「……まぁ、あの子の顔は……髪で額を隠して、化粧でもすれば、目立たなくなると思うけれど」 志野にすっかり同情し、そんなことまで言った鞠子は、それでも不安そうに眉を寄せた。 「今となっては、雅流の目が見えないことが幸いという他ないのかしら……志野のことはとても気の毒だと思うし、お母様の気持ちも判らなくもないけど、いくらなんでも、もう無理よ。雅流はまだ若いし、いくらだっていい縁談があるのに……あの娘は、もう子どもが二三人いてもおかしくない年なんだから」 黙る御園に、たたみかけるように鞠子は続けた。 「私だったら、耐えられないわ。志野なら余計、もし雅流にそれと知られたら、すぐにでも出て行きそうな気がするけど」 判っている。 それは最初から不安に思っていたことでもあった。 仮に――仮に、志野の年齢や容姿を含め、それでもいいと、雅流が承知したとしても。 前と同じで、志野がかたくなに固辞するだろう。 いや、それ以前に、もし雅流に、しずという女が――志野であることが知れてしまえば、やはり志野は出て行ってしまうに違いない。 「正直言えば、あまりいい方法とは思えないわ。目の見えない雅を騙して、志野を傍におくなんて……」 帰り際、鞠子は眉をひそめたままで囁いた。 「雅には見えなくても、他の人には見えているのよ。永久に隠し続けるなんて不可能よ。それに雅の縁談が万一まとまったらどうするの? 雅の気持ちも志野の気持ちも、お母様は本当に確かめられたの?」 |
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