■■■■■■■■ 聞こえる、恋の唄 ■■■■■■■■ 第11章 「御園の決意」 |
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(志野、お前は幸せなのかい……) しかし志野への慈愛は、雅流の今に思いが至ると、たちまち陰ってくすんでいく。 息子が戦争に行ったのも、視力を失ってしまったのも、元を正せば全て志野のせいではなかったか。 雅流には、もう二度と志野のことで思い悩んでほしくはない。 どんなに逼迫(ひっぱく)したとしても、この先、絶対に二人を会わせるわけにはいかない。 いや、志野のことだけではない。雅流には、何一つ憂うことなく、今後の人生を切り開いてもらいたい。 まだ、自分の身体はさほど老いてはいない。 何年かの間なら、雅流一人の面倒くらい見ることが出来る。 後のことは、その時に考えればよい。どうせ、一寸的のことなど誰にも予測できないのだから。 この家を出よう。 ふと御園は、戦後、ずっと弾いていなかった三味線のことを思い出していた。 家では、薫に遠慮して弾くのをやめていたが、もしかしたら、素人に稽古くらいはつけられるかもしれない。 そうだ、黒川流の許可を得て教室でも開いてみたら、いくばくかの収入が得られるかもしれない。 この家を出よう、そして雅流と生活してみよう。 うとうととまどろみながら、御園ははっきりと決心していた。 |
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