■■■■■■■■ 聞こえる、恋の唄 ■■■■■■■■ 第11章 「御園の決意」 |
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郊外の田舎で購入した小さな建家。それが今の櫻井家である。 戦後、わずか三間しかないこの狭い家で、御園は、薫夫婦と同居という形で共に暮らしていた。 むろん、雅流を連れて帰る家は、ここしかない。 その夜は、六畳の居間に、綾女が用意した心づくしの手料理が並べられ、ささやかな歓迎の宴が催された。 寡婦となり、鴨居の姑と共に小さな洋服店を経営している鞠子も加わり、久しぶりに家族全員が顔を合わせることとなった。 「雅流さん……お帰りなさい」 綾女は、しばらく顔を覆ったきり動かなくなり、薫もまた、無言で涙を堪えているようであった。 鞠子は泣きむせび、御園も新たな涙で頬を濡らした。 やがて激情が収まった家族の話は、夜が更けても尽きることなく続いたが、雅流は疲れているのか、早々に別間に下がってしまった。 「私、西瓜を冷やしてまいりますわ」 綾女が外へ出ると、鞠子が初めて、難しそうな顔になって御園を見た。 「ねぇ、お母さま、雅はこれからどうなるの」 「どうって、お前」 いきなり冷水をかけられたような嫌な気分になって、御園はそっと眉をひそめる。 鞠子の杞憂は、雅流が帰国する前から、御園自身が抱いていたことでもあった。 不自由な目では、御園が期待するような職につくことは出来ないだろう。 按摩の学校にでも通わすしかないのだろうが――それは、どうも雅流の性ではないような気がする。 何しろ雅流は、まだ二十二歳を超えたばかりなのだ。 健康で、美丈夫で、溢れる若さに恵まれた青年が、職業ひとつ自由に選べない事が、御園には口惜しくて仕方がない。 「仕事のことばかりじゃないわ。生活の面でもそう。雅一人ではやっていけないわ。誰かが傍についていなきゃ」 「それは私がついていますよ」 あまりに現実的な言いように、思わず声に険が出る。 しかし、鞠子は眉を上げ、即座に切り返してきた。 「なに言ってるの。お母様だって、もう誰かの手が必要だってことが判らないの。畑仕事ひとつできないくせに、どうやって雅の世話をしていくつもり?」 「まぁ……」 言葉に窮し、御園は恨めしく鞠子を見上げた。 |
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