「いずれにしても、決めるのは君自身だよ、右京君」 男の声は柔らかかった。 「私の役目は終わった、けれど、君の役目はまだ終わってはいない……」 子供時代、何かの折りに一度だけ父に紹介されたことがある。 優しいおじさんだった――ということだけは、漠然と記憶しているし、彼が議員時代にも何度か職務で会っている。 けれど、目の前に座する男と、一人の人間同士として向き合うのはこれが初めてのような気がした。 「君自身の戦いは、まだ終わっていないのではないかね、右京君、……これは、私の個人的な感慨ではあるが」 それだけ言って、今は国連事務局参事に職を移した、元防衛庁長官は立ち上がる。 右京奏は、何も答えられないまま、その背中を見送った。 あまりにも思いがけない申し出に、ただ困惑したまま、無言で閉じられた病室の扉を見つめていた。 |