複雑な愛憎。
日名子
(
ひなこ
)
の
皆斗
(
みなと
)
への感情は、愛と憎、常にそれが曖昧に入れ替わる。
愛しくて可愛い、なのに――時々、たまらなくその存在がうとましく思える時がある。
それが、理不尽なジェラシーだと……判ってはいるのだけど。
※
まるで、二匹の子犬がじゃれあっているようだった。
暖房の効いた暖かな部屋。
背後のテレビでは、見覚えのある特撮番組が流れている。
弾けるような、歓声と笑顔。
二人の少年は――その番組のヒーローを模して、戦いの真似事をしているようだった。
部屋の扉を開けて、少しの間佇んでいても、彼ら二人は、侵入者の存在に気づくことなく、もつれあうようにして組み合っている。
「……誰、こいつ」
最初に顔をあげたのは、背の高い方の少年だった。
柔らかな茶味かがった髪に、雪白の肌。唇が紅く、まるで女のように綺麗な顔をしている。
「ああ、前言ったじゃん、今日からうちにくることになった……ええと、新しいお父さんの子供でさ」
もう一人の――美少年に組み敷かれていた少年も、むっくりと身体を起こして、口を開く。
「ながくら、……なんだっけ」
こちらは、対照的に色黒で、坊主頭。勝ち気で負けん気の強そうな顔をしている。
すらっとした美少年に比べてもそうだが、日名子よりさらに背が低い。
「……永倉日名子です」
日名子は小さく一礼すると、改めて目の前の少年を見つめた。
この――坊主頭の、色黒の少年が、
水城
(
みずき
)
皆斗。
父親の再婚により、今日から彼が日名子の弟になる。
そのことは、もう、理解も納得もしていたが――実際に会うのはこれが初めてで、会ってみれば、やはり違和感があるものだと、改めて思っていた。
昨日までの赤の他人と、今日から姉弟になるなんて。
「皆斗の、新しい姉さんか」
美少年が呟く。
日名子は目をすがめて、そう言った少年を見た。
皆斗の友達だろうか。それにしては、少し年が離れているようにも見えるけど。
皆斗は小学一年生で、それ相応の雰囲気を持っているが、美少年は、下手をすれば中学生くらいに見える。
「いいじゃん、もう、遊ぼうよトシ君」
ふいに、ふてくされたように唇を尖らせたのは、皆斗だった。
美少年の腕を、焦れるように引く。
そして、ちらっと日名子を見る。
切れあがった黒目がちの目に、はっきりとした敵意を感じ、日名子は少したじろいでいた。
それは、新しい家族の存在を拒否している――真っ正直な子供の眼差しだった。
※
今でも、あの始まりの日の光景を、日名子は昨日のことのように憶えている。
いきなり現れた侵入者を拒む眼を、親友を取られまいとする警戒心のこもった眼差しを――。
あれから十年たった今でも、色鮮やかに思い出せる。
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