■■■■■■■■ 聞こえる、恋の唄 ■■■■■■■■ プロローグ |
耳から胸に、雨のように旋律がしみていく。 初めは静かに、囁くように優しく。 しだいに緩急を交えて激しくなり、やがて気高く鳴り響く。 志野は目を閉じ、そっと音色に自分を重ねた。 愛しい人と心が溶けあい、魂ごとひとつになる。 そんな感覚を、確かに感じる。 眼を閉じていても判る。 はっきりと頭に浮かぶ。 彼の撥(ばち)が、指先が。 きれいな横顔が、凛とした背筋が、美しい眼差しが。 決して、叶わない恋だけど。 明日には、別れる人だけど。 もう二度と、生涯会えない人だけど――。 |
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