聞こえる、恋の唄
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プロローグ

耳から胸に、雨のように旋律がしみていく。

初めは静かに、囁くように優しく。

しだいに緩急を交えて激しくなり、やがて気高く鳴り響く。

志野は目を閉じ、そっと音色に自分を重ねた。

愛しい人と心が溶けあい、魂ごとひとつになる。

そんな感覚を、確かに感じる。

眼を閉じていても判る。
はっきりと頭に浮かぶ。

彼の撥(ばち)が、指先が。

きれいな横顔が、凛とした背筋が、美しい眼差しが。

決して、叶わない恋だけど。

明日には、別れる人だけど。

もう二度と、生涯会えない人だけど――。









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